医療法人社団方伎会【石川クリニック】

石川クリニックの記事

リエール 2013年9月号掲載「西洋薬と漢方薬の違い」

西洋薬と漢方薬は何が違うのでしょう。西洋薬は、作用を明らかにするために製造された単純品(一定の性質をもつ化学物質)です。効果が高くなれば毒性も強くなり、多くが劇薬毒薬の指定を受けています。消化管に影響を与えるので、食後に服用するのが標準です。一方、漢方薬の原料は植物、動物、鉱物など天然原料を調整した生薬です。なかには劇薬もありますが、修治という方法で減毒して使い、食前、食間に服用します。
また、漢方はその人を治す、という観点から、たとえば同じ風邪でも体力によって処方が異なります。
体力のない人の症状は高熱が出ずに寒気や汗、薄い鼻水があり、桂枝湯(桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜)を用います。服用後、熱いお粥などで補う必要があります。桂皮はシナモン、大棗はなつめ、生姜はしょうが、甘草は甘味料で、すべて食品です。もう少し体力があり、首や肩に凝りなどが出ると、桂枝湯に葛根を加えた桂枝加葛根湯がよく合います。葛根は葛の根です。さらに体力があり悪寒、発熱、首肩の凝りや関節痛が出て汗をかかない状態には、桂枝加葛根湯に麻黄を加えた葛根湯を用います。麻黄は強い作用があるので、体力をよく見ないと高齢者には前立腺に影響を与え、尿が出づらくなります。心臓が悪いと狭心症の発作を誘発することもあり、注意が必要です。的確な診断の下では、葛根湯で流感などの感染症、顔面麻痺や吃音など、約65もの疾患を治すことができます。

リエール 2013年6月号掲載「『噛む』ことで免疫力を上げる」

健康を保つには、食べて、寝て、体を動かすことが基本です。食べることのポイントは、食品の種類とともに食べ方が重要です。よく噛むことで澱粉を消化するアミラーゼという酵素が出て、消化吸収がよくなります。高齢者は、今まで続けていた「よく噛む」という食習慣が崩れると、急に老け込みます。よく噛むことが人生で一番大切といってもいいほどです。
よく噛むことで消化能力が高まると、病気を防ぐための鍵である小腸の免疫力が上がります。漢方では、おなかの重要な情報をとるため詳しく診察して、それに合った処方をします。おなかを触るとチャポチャポと水の音がする場合は、胃腸虚弱を疑います。元気が出ない、疲れやすい、太らない、食欲が出ない、少し食べるとすぐおなかがいっぱいになる、いつまでも消化せずおなかがすかない、便通がよくないといった場合は、消化力の減退が認められます。寝付きが悪い、寝ても眠りが浅くすぐ目覚める、朝早く目が覚める、あるいは目覚めが悪いといった人がいます。さらに、昼食の後ひどく眠くなるという症状があります。自律神経失調症の症状と判別できない場合もありますが、これらも往々にして消化力の低下が原因です。
漢方ではこの状態を「脾胃の虚」といい、消化力、気力、体力を増強するための処方があり、これが六君子湯です。なかなか治らない症状も、まず消化力を改善して免疫力を上げると、いつの間にか症状がとれてきます。

リエール 2013年4月号掲載「気力体力を回復させ健やかに」

日本では古来、病気の原因を「気、血、水」によると考えてきました。日本語でも「気」の入った言葉は「病気」「元気」「勇気」「気が滅入る」「気がある」「気がない」「気を入れる」などたくさんあり、心の有りようを表しています。漢方では、「気」とは目に見えないが生命活動を営む根源的なエネルギーを意味し、気の不足があると「気虚」といい、「気鬱」は気の停滞を表し、「気逆」はのぼせを表現しています。
現代ほどストレスの多い時代はありません。10年前には疲労感を訴えていた人が、今ではその荷重が大きすぎて疲労していることすら分からない始末です。20代は体を使う仕事が多くても30代に入るとデスクワークになり運動量が激減します。仕事量と責任範囲の増加がストレスを増大します。 40代に入ると、仕事と人間関係で鬱的な傾向が強くなります。
さらに聴力や視力を測って正常でも、ストレスが多いと心の働きで見たくないものは見えなくなり、聞きたくないものは聞こえなくなります。突発性難聴や耳の詰まりなどにも心が関係してきます。肺や胃、小腸・大腸、膀胱などの中空臓器はストレスを受けやすく、喉の詰まり、咳や過呼吸症候群、呼吸困難、ガス腹の腹痛、放屁や下痢・便秘、食後の異様な眠気、頻尿や尿閉などの症状が多く見られます。このような症状は漢方の得意とする分野で、順気剤や補気剤を用い、気力体力の回復を図って治すことができます。

リエール 2013年2月号掲載「長引くと怖い、熱の出ない風邪」

「風邪は万病の元」という言葉がありますが、あらゆる病気の初期症状は風邪の症状から始まることからこういうのだと思われます。漢方では同じ風邪症状でも、強い悪寒や高熱、激しい頭痛、関節痛など、インフルエンザのような強い症状の場合を「傷寒」と予備、比較的軽い症状を「中風」と呼んで区別しています。
2?3年前から、ひどい悪寒や高熱を訴えてくる患者さんは少なくなり、すでに急性期を過ぎて、粘りのある黄色い洟や痰になった状態で来院数ケースが増えています。熱も激しいものではなく、夕方に上がる傾向があり、食欲不振などの消化器症状も出るのが、亜急性期の風邪の特徴といえましょう。
強い症状の時は桂麻各半湯、麻黄湯や大青竜湯といった薬で治癒するケースが多いのですが、亜急性期になると、柴葛解肌湯がとてもよく効きます。
注意が必要なのは、体力が低下している人が引きやすい、熱の出ない風邪です。熱が出ないのでそのうち治ると考えて、養生も治療も怠りがちになります。そうすると喉が痛み、くしゃみ、鼻水、咳が出て長引き、万年風邪になります。若い人は「風邪が長引いた」で済ますことができても、高齢者は風邪が長引くと、いつの間にか食欲が落ち、疲労倦怠感が強くなって寝汗をかくようになり、無熱性肺炎を引き起こす危険性が増えます。平素から、このような風邪を治す桂姜棗草黄辛附湯を服用するとよいでしょう。

リエール 2012年12月号掲載「水毒を改善すると膝痛がラクに」

老化防止にと、急に山登りやジョギング、野球やテニスなどの運動を始めると、たいがいは膝などの関節を傷めます。その点、ウォーキングは効果的で、1日1万歩あるくように指導しています。けれども歩き方、歩く姿勢、歩幅などが腰や膝に影響を与えるので注意が必要です。猫背だと腰や膝を痛め、太っていると全体重が膝にかかってふたんになります。関節は筋肉と骨と腱と関節を包む骨膜でできていますが、菌に気が硬くなると安説の可動域が狭くなり、軟骨や骨が変形し、痛みが出るのです。これを防止するためには、体重減少と関節を柔らかく使うためのストレッチが欠かせません。
このように膝痛が加齢や肥満、姿勢に関係することは確かですが漢方では冷えと水毒の影響を考慮します。変形性膝関節症や膝蓋骨軟化症、半月板損傷などが膝痛を引き起こすと考えられますが、そもそも水毒が発症の原因となり、症状を悪化させているケースも多いのです。
膝痛といっても痛みの出方はさまざま。会談を上がる時、下る時でも痛み方が異なるものです。漢方診療では症状や痛みの出方、体力、体質あどから、その人に合う処方を考えます。水毒による膝痛には防已黄耆湯が第一選択で、?苡仁湯や越婢加朮湯、桂枝加朮附湯などを併用すると長年の痛みが改善する場合が多いようです。また冷えが原因の場合には五積散で治る場合もあります。しつこい関節痛でも、適切な漢方治療があります。

リエール 2012年10月号掲載「昼食後に眠くなる人は胃腸虚弱」

漢方の診療は四診といって、望診、問診、聞診、切診をします。
「望診」は西洋医学でいう視診で、 体を目で見て異常を観察します。
漢方では顔色や表情の変化、目線や雰囲気も考慮して見ます。一目見て、風邪を引いているなとわかることがあります。「問診」は西洋医学の問診と同じですが、違いは漢方的な診断に基づいて聞いていくことです。「聞診」は声の強さや張り、匂いなどを判断します。「切診」とは脈診と腹診のことですが、触って脈と腹部の状態を診ます。
漢方では、必ず切診を行います。「口や顔は嘘がつけるが、脈や腹は嘘をつかない」と患者さんによく言います。言葉の情報は見えや外見があるため、正確な情報を伝えているとは限らないからです。切診が大事なのは、触ることで体が発している情報を客観的に把握することができるからです。
お腹を触っただけで、チャポチャポと水音がする人がいます。これは胃や腸にガスや水がたまっている証拠で、漢方ではこれを振水音といい、水毒体質を意味します。このようなタイプは顔色も悪くやせてスマートで、胃下垂といわれる場合が多いです。
たくさん食べても太らない、食べたくても耐えられない人は寝つきが悪く、昼食をとると眠くなる傾向にあります。漢方では脾胃の虚といい、消化能力が衰えていると考えます。体質とあきらめている人でも四君子湯等の漢方薬で改善でき、疲れも取れ、胃腸も顔色も良くなり、元気になります。

リエール 2012年8月号掲載「胎毒を下す甘連大黄湯加紅花(まくり)」

漢方治療をしていると気管支喘息、重症アトピー性皮膚炎や花粉症というアレルギー性疾患が増えていることに気づきます。アレルギーマーチといって、いろいろなアレルギー性疾患を順番に発症することもあります。気管支喘息が軽くなったと思ったらアトピー性皮膚炎や花粉症が取って代わって出現する、といった具合です。
私の子どもは両方の祖母に気管支喘息があったためアレルギー性疾患が出ることを恐れて、生後すぐに漢方の煎じ薬「まくり」を与えました。アトピーが多少出ましたが、成人した後は症状がまったく出ていません。昔はお産婆さんが初乳の前に「まくり」を新生児に与え、いろいろな害をなすとされる胎毒を下すことで、子どもが健全に育つようにしていたものです。
昔より不妊症も増えましたが、原因となる冷え症や精神的なストレスを漢方で治療すると妊娠する場合がありいます。せっかく妊娠したのですから無事に出産するように、出産まで安胎薬である当帰芍薬散を処方します。そして予定日が近づくと、産婦人科の先生にのませていただくように、お祝いとして「まくり」をさし上げています。「まくり」は甘連大黄湯加紅花という煎じ薬ですが、体質にかかわらず用いることができます。漢方医で産婦人科医だった故・石野信安先生は「まくりは新生児黄疸を軽く、皮膚をきれいにするなどの効用があり、この習慣が復活するとアレルギー疾患が減るであろう」と述べられています。

リエール 2012年6月号掲載「胃腸虚弱な小児に小建中湯」

アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症といったアレルギー性疾患のあるお子さんが増えています。新入生は3か月くらいすると疲れが出てきて症状が悪化したり、ストレスのためにおなかが痛くなり、幼稚園や学校に行きたがらないといった症状も多く見受けられます。
冬は寒がり、夏は何となくだるく、すぐ疲れるといったお子さんで、顔を見ると血色が優れず、あまり食欲もなく食事が進みません。また、食べた後に腹痛や下痢が出て、食べても太らず、風邪を引きやすい。原因がハッキリしないのにだるく、疲れやすいといった症状があり、なかには夕方微熱が出て、親が心配して医療機関で検査をしてもらっても、これといった診断がつかない場合もあります。
大きな病気がなければ、体質改善は漢方治療の得意とする分野です。漢方は、脈とおなかの診察で合うお薬を決めます。おなかを診せていただくと、多くの場合、おなかが冷えていて、腹壁は薄く、腹に力がなくて弱いが腹筋は張っている。お腹を触ると異常にくすぐったがります。大人でも胃腸虚弱の人は、くすぐったがります。こういう人は、食の嗜好が甘い物、果物、生野菜、冷蔵庫で冷やした飲み物、アイスクリームや氷を好みます。胃腸を冷やすと免疫力を落とすので、これらの食べ物はやめて体を温め、気力体力を強くします。胃腸虚弱、長引く風邪、腹痛、夜尿症、幼児のヘルニア、体質改善などの症状には小建中湯がよく合う場合があります。

インタビュー 2012年4月26日号 女性セブン「西洋医学と漢方ってどんな関係ですか?」

欧米からも注目される日本の漢方

「漢方が中国から日本に伝来したのが約1500年前。それから日本の風土・文化・体質に合うように、また日本人にいちばん適するように工夫され、現在の漢方治療のスタイルになりました。病気は患者ひとりひとりで違います。漢方の診察で、舌や脈やお腹を診て、その人に合うお薬を出すというシステムが、この腹診を中心とした日本独自の診察方法です。また、現在使用している処方はざっと1600種類もあります」
日本東洋医学会会長の石川友章さんがこう説明する。長い歴史をもつ漢方だが、その効果や効き方に疑問を持つ人も多い。
「同じ症状でも江戸時代と現代では病名が異なっていますが、『傷寒論』など中国の漢時代の文献には病気の変遷とその治療法が詳しく書かれています。このように、歴史の中で数多くの人々が使用し、効果のあった物だけが現在も残っているわけですから、それも“効く根拠”のひとつといってもいいでしょうね」(石川さん・以下同)
漢方が得意な疾病を石川さんが教えてくれた。「実は、がんよりもインフルエンザの方が怖い病気なんです。インフルエンザは6時間で死に至ることもある。しかし、がんの場合は、ステージによりますが、すぐ死ぬわけではありません。その間に食事などに養生法や漢方薬などをとり入れ、状態を改善することが可能なのです。実際に末期の大腸がんや胃がんが治癒したというケースもあるほどです」
日本で独自に発達した漢方は、アジアの伝統医学を特集した米紙『ネイチャー』のなかで、“日本の漢方薬は成分が一定で西洋医学と統合しやすい”と紹介された。アメリカでも注目されていることがわかる。
「ヨーロッパでは積極的に鍼治療が取り入れられていて、漢方にも理解が深い。ドイツやスペインなどでも日本の漢方がよく効くことが知られています。日本漢方の国際学会も作られ、昨年はミュンヘンで、次はロンドンで学会が開かれます」

リエール 2012年4月号掲載「こむら返りに速効」

若葉萌えいずる頃になると、外に出たくなります。ところが急に動き出すと、固まった関節を無理に動かすため、色々な障害が出ます。また運動後、寝ているときに足にこむら返りを起こすこともあります。激烈な痛みでしばらく動くことができないので、本人は相当つらいものです。けれども、ありがたいことに、こむら返りに効く漢方薬があります。
これは芍薬甘草湯といって、甘草と芍薬の二味でできています。甘草はしょうゆなどの甘味の原料として使われますが、急な症状を緩和する働きがあり、芍薬は痛みを取る働きがあります。こむら返りが起きたらすぐに飲むと、数分以内でうそのように痛みがとれます。この薬は飲み過ぎると浮腫が出ることがあるため、注意が必要ですが、常用しなければそのようなことは起こりません。こむら返りが起きやすい人は、この漢方薬を常備しておくと安心です。
医療現場では投石中にこむら返りが起きるため、よく用います。また手術後にしばしば起こる腹痛は亜腸閉塞で、この薬の服用により腸閉塞にならずにすむ場合があります。漢方専門医は、これ以外に致命的な疾患となり得る急性膵炎のような急性腹症にも用います。この場合は、厳重な医療管理の下に用いる必要があります。
漢方薬に限らず薬は素人判断で軽率に用いると、痛みが一刻取れても重症化し、致命的な結果になりかねないので、医師の診断を仰ぐことが必要です。

リエール 2012年2月号掲載「冬は冷えと?血に注意」

1年でもっとも寒い季節を迎えました。冬にかかりやすい病気に、寒さに起因した風邪や膀胱炎があります。冷えや疲れが原因で防御機能が衰えて感染しやすくなるのです。とくに膀胱炎は女性がかかりやすい病気です。これは、冷え症が多いという女性特有の条件があります。
漢方の診療方法のひとつ、腹診をしていると上腹部と下腹部では温度差が認められる人がいます。とくに女性の場合、触診すると下腹部に?血(古血)が多く見られることがあります。この?血は冷え症の過多に存在します。?血があると生理不順、生理痛、過多月経、過小月経、月経前症候群など、落ち込みやイライラ等の症状や、ひどい場合は物を投げたりするという症状が出てくるのです。さらに冬は乾燥しやすいのですが、それ以上に肌荒れになるのも?血の仕業です。漢方では、病気の原因を「気」「血」「水」の異常と考えます。?血に対する有効な治療法として、駆?血剤をうまく使います。体力の強弱を判断して、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯などの代表的な駆?血剤を用いると冷え症が改善します。そうすると、冬の寒さに対しても抵抗力が生じ、膀胱炎の予防にもなります。
短いスカートをはいたり、生の果物などを多くとると、体を冷やします。厚手の靴下や下着を着用し、意識して下肢や下腹部を温めると血行が良くなり、感染防御能が上がります。冬は体を温めることを肝に銘じましょう。

リエール 2011年4月号掲載「多様なめまいは綿密な診察で処方を」

めまい、ふらつきを愁訴とする患者さんには、それ以外に頭痛、頭重、悪心、嘔吐、肩こり、のぼせ、耳鳴り、口渇、手足の冷えや平均感覚がおかしくなるといった症状が伴う場合が多いようです。めまいといっても回転生や浮遊感のあるものなど様ざまです。
漢方では病気の 原因を気、血、水の異常ととらえ、症状を腹診とを加味して診断します。めまいの多くは水と血の異常が多いのですが、神経を使いやすくちょっとした事でエヘン虫(のどの詰まりをエヘンと咳をしてとろうとする)が出て、それがとれない人のめまいは気が滞って起きるので、気の巡り を良くする順気散を用います。腹診で体力の有無を診て、気滞症の代表処方の一つである半夏厚朴湯を用いることが多いです。
腹診で胸脇苦満があれば、程度により大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遥散を用います。
また、振水音がある場合によく用いられる処方が苓桂朮甘湯です。これは起立性調節障害や一過性の仮性近視にも効果があり、船酔いや飛行機酔いにも効くようです。平素から胃腸の弱い方には半夏白朮天麻湯を処方します。
動脈硬化が背景にある、朝の頭痛を伴うめまいには釣藤散がよいでしょう。お年寄りで冷え性が強く、お腹が弱く浮遊感が強い人には真武湯が著効を示すことがあります。簡単な様でなかなか難しいのがめまいの様ですので、専門医によく診てもらうことが肝要です。

産経新聞 2011-2012Winter Issue「水も取り過ぎれば」

水は人間に多くの恩恵を与えるとともに、間違えて使うと色々な障害を与えてしまう。
南フランスのピレネー山脈の麓にあるルルドという村にわき出している「ルルドの泉」は、万病を治す奇跡の泉として有名で、世界各地から難病患者がその水を求めて集まってくる。ここは、カトリック教会の巡礼地としても、年間約500万人もの人がこの地を訪れている。
しかし、喧伝される奇跡のうち、ほとんどは結核、眼炎、気管支炎など自然治癒あるいは近代医療で回復するもので、損傷した脊椎の回復など、重篤な障害、病気が治癒したという事実はないとのことである。
水が身体に良いといって、たくさん取り水中毒になる人もいる、水飲みコンテストで、飲み過ぎて死亡した例もある。
日本ではここ数年、夏の猛暑が厳しく、熱中症で亡くなった方が多く見られた。熱中症予防のためには、水分補給が欠かせないと、マスコミ報道で水を飲め飲めと盛んに喧伝された。ところが、今年は6月より気温の変動が激しく、早い時期から熱中症が見られた。身体の方は、気温の変動に付いていけず、金属疲労と同じように、身体がクタクタになったようである。7月初旬から、もう既に夏バテになる方が多く、来院される半数近くの方にその症状が見られた。
診察すると、お腹は、水腹になり、全体にガスが溜まり、疲れやすく、怠さを訴え、昼食を取ると眠くなり、その割には夜がよく眠れないという。だんだん進むと、食欲が無くなり、下痢などの消化器症状が現れてくる、そのうち身の置き所が内くらいに、疲労倦怠感が現れる。
万葉集いんも、夏ばてにはうなぎを食べろと詠まれている。これは、弱った身体に良質なタンパク質を取る必要があり、消化の良い形で栄養補給を行うためである。しかし、暑くなると、麺類が多くなり、あまり噛まなくなる。それにもまして飲料水の摂取量が多いようで、消化液を薄め、ますます消化不良の状態となる、そうなると、消化機能が落ちて、気力体力が損なわれ、何もヤル気がなくなってくる。
漢方では、病気の原因を「気」「血」「水」という3つの概念で説明している。この過不足で、病態を解析している。特に漢方治療で注意することは、常に水分バランスを保つことである。身体の中に、水が過ぎると「水毒」といって、病因の一つになるからである。
巷間では、脳梗塞予防に、血液さらさらにしなければいけないということで、必ず、寝る前に、水分を取るようにと言われ、1日水分量も最低で2?3リットル飲むように進めている。
高齢者は心配で、のべつ水分を取っているようで、下肢の浮腫を訴える方が意外と多い。腎機能が悪いわけでもなく、低蛋白血症になっているわけでも貧血気味でもない。甲状腺の機能も正常である。やはり、水分摂取が多いのではと聞いてみると、尿回数も多く、特に夜間に透明な尿が多くなるという。
水分は飲もうと思うと、いくらでも飲めるが、出す方は、汗と尿と大便で出ていくしかない。余分に取った水分は身体のラフな組織に溜まってします。飲んだ水分は身体に均一に分布するように思っている人が多いが、水毒となっているときは、身体の部分に水が偏在して、色路名症状を表す。
普段よくある水毒のケースが二日酔いである。まるで、脳みそが小さくなって、頭蓋骨にゴンゴン当たるような酷い頭痛がして、ムカムカと吐き気があり、ものすごく口渇がして、顔はむくみ、足もむくむ。小便が出なくて、下痢をする。こういった症状をよく経験する。他に、水毒があるとめまいや耳鳴りなども出る。
体の中の水が偏在しれいることがはっきりと感じられる時である。こういう場合は五苓散を服用すると、汗や小水が出て、頭痛が取れ、総会になって、仕事に穴を開けることがない。
熱中症も水のアンバランスがあるので、五苓散を服用していると、熱中症に罹り辛くなる。ここ数年、夏の気温の変動が激しさを増す傾向にあり、熱中症や夏バテと言った症状が起きやすい。早めに食養生が重要である。

インタビュー 2009年5月1日掲載 “名ばかり漢方医”では役に立たない

最先端の医療機器をそろえた病院で治らなかった病気が、漢方で治ったー。原因不明の体調不良だけでなく、癌などの難病を抱える中には、こうした経験を持つケースは少なくない。
日本臨床漢方医会理事長で慈恵大客員教授の石川友章氏も「最近は漢方を扱う大学病院が増え、東洋医学的な治療が見直されています。賢い患者になりたければ、かかりつけ医は最新医療知識だけでなく、漢方がわかる医師を選ぶべきです」と言う。
とはいえ3000人を越える漢方医の中には“名ばかり漢方医”もいる。どんな基準で選べばいいのか?石川氏に聞いた。

●「漢方専門医」の中から選ぶ
「かつては自称漢方医がいましたが、いまは東洋医学会があるレベルに達した漢方医と認めない限り、漢方専門医の看板を掲げられません。むろん、昔から漢方を治療に取り入れている開業医の先生の中には、専門医資格をわざと取らない名医もおられますが、東洋医学会のホームページや医師のプロフィールを診て漢方専門医と名乗っている中から選ぶのも一つの手です」

●病気の進行具合や症状により、漢方薬の種類を替えられる
風邪や下痢に効く漢方薬はそれぞれ20種類以上、腹痛は28種類もある。同じに風邪でも症状に応じて漢方薬を替えられなければ優秀な漢方医とはいえない。
「風邪だったから葛根湯一本やりという人がいますが、漢方医としては失格です。風邪は引き始め、熱が出て肩が凝ったとき、たんが出るとき、など症状や進行具合によって処方する漢方薬の種類は違います。それができる医師を、かかりつけ医にするといいでしょう」

●脈診・腹診をきちんと行う
西洋医学では血液検査やCT画像診断が中心で、脈診や腹診を行う医師がメッキリ減ったが、これを行わない漢方医は信用できない。
「漢方は一人一人の患者さんの症状に応じて、もっとも適切な漢方薬を処方しなければなりません。それには症状はもちろん、体質や生活習慣などの問診を十分行い、最終的に脈や腹部の状態を診る脈診・腹診が重要なのです」

●西洋薬と漢方を一緒に出す医師は避ける
患者集めという“営業目的・思惑”から、他の病院との差別化を図るために「漢方専門医」の資格を持っている医師も少なからずいる。
「糖尿病、高血圧症などの慢性疾患で、西洋薬を出すケースがあります。危機管理としては必要なことですが、安易に漢方薬を西洋薬の補完剤と考え、平気で一緒に出すのは、いかがなものでしょう。西洋薬が毒をもって毒を制すという考えなのに対して、漢方薬は身体全体の調子を整えて病気を治すという考え方で、思想がまったく違います。西洋薬も漢方薬もしっかり適応を考えて出す医師をかかりつけ医にするべきです」

●評判のいい漢方医に診てもらう
「漢方医は積極的にPRしません。身近な方の間で評判のいい漢方医は一考の価値があります」

医師の目 漢方薬、処方に厳密な条件

日本人ほど薬の好きな民族はいない。

万葉時代から野遊びをしながら、薬摘みをする習慣があった。摘まれた生(き)薬を保存して、日頃から体調の変化や症状に応じて服用し、悪化しないように努めてきた。養生を行い、それでかなわぬ時は医師に診てもらい、漢方療法や鍼灸治療を受けた。
今の人には思いもよらないだろうが、江戸時代、農閑期に行く湯治は、八日間を一巡りとし、七日間入浴して一日休むサイクルを三回繰り返したという。疲れた体を癒し、病気にならない努力を常日頃から行っていた先人の知恵に学ぶところは大きい。
漢方医療で使われている生(しょう)薬は上薬、中薬、下薬、に分けられ、上薬は無毒で、長く服用しても害のないものとされる。中薬は病気を防ぎ、体力を補うので、毒の有無により加減する。下薬は毒性があるため、病気の時だけに用いるとされている。
民間薬で用いている生(き)薬は当然安全なものでなくてはならず、劇物毒物では危なくて素人には扱えない。
明治維新以降、わが国では西洋医学が主流となった。西洋医学の創薬思想は毒物を中心としている。症状をとるメリットを重視するが、基本は毒物治療である。だから、副作用があるのは当然である。
毒物には有効量、中毒量、致死量があり、飲み過ぎれば当然死ぬ。物質を純粋化すれば、毒性が強くなる。天然塩を精製してNaClにすれば、血圧をあげ、浮腫(ふしゅ)になることは周知の事実である。
病名が一緒だからといって、自分のもらっている西洋薬を分け与える人がいるが、西洋薬は用量用法をきちっと守らないと危険極まりない。
漢方薬も使い方によれば、生命の危険をもたらす。食用に作られた野菜や米と違い、漢方薬の安全性を担保するには、薬を使う医師・薬剤師の漢方医学に関する技術と知識が必要である。
風邪に適応する漢方薬は二十処方以上考えられる。漢方薬にはその適応症に対して厳密な条件があり、条件を無視して用いれば、害作用が生じる。「誰でも風邪に葛根湯」とはいかないゆえんである。

医師の目 養生法の大切さ変わらず

風邪を治せるようになれば、漢方医も一人前だといわれる。
「なぜ風邪ごときで」と思われる人も多いだろうが、風邪の症状は万病の入り口だ。
適切に診断・治療をしなければ、重症化してしまう。
よく「この程度なら自然に治ると思ったから」という人がいる。しかし、体調を崩したから風邪を引いたわけで、「そのまま治るくらいなら、初めから引いていないでしょう」と話す。
風邪に注意すると言うことは、体調を壊さないということに尽きる。体調を崩すのは、暴飲暴食、過労、睡眠不足、ストレスが原因だ。直すにはこれらを避けて、養生をしなければならない。
小腸の絨毛(じゅうもう)上皮のところにある免疫T細胞を活性化させるには、消化不良を起こす油物をやめる。それと、風呂に入ることを禁止する。病気になって体力が消耗しているところに水に入ると、ますます消耗する。正常なときは何でもないことが、病人にはこたえる。こうした養生が治療中には必須である。
感染症ですぐ死んでしまった時代は、養生が予防の重要な条件であった。
厚生物質ができたおかげで死ぬことは少なくなり、何でも薬で治るという錯覚から「薬さえ飲んでいれば、日常生活はいつも通りでよい」という風潮が広がっているが、ウイルス感染は相変わらずまん延している。流行が懸念されている新型インフルエンザ対策は今後の大きな課題である。
過去のスペイン風邪やアジア風邪、香港風邪の流行では、世界で数千万の死者を出した。ましてチフス、ペストといった死病から身を守れたのも、昔ながらの知恵、養生法にほかならない。
戦後すぐは、糖尿病も高脂血症もメタボリックシンドロームも問題にはなってなかった。その代わり、栄養失調で多くの人が亡くなっていた。この経験から、日本社会は過剰栄養の時代にひた走ることになった。
疾患から社会のあり方が見える。疾患の時代的変遷の背景には、社会環境や社会現象の変化があるが、時代が動いても、人間の生き様は大きく変わらない。
養生法の大切さがここにある。